第16回 併殺打機会とは〜機会別の併殺打率〜(2012.12.08)


 今回は併殺打機会(併殺打シチュエーション)別の併殺打数について述べる。前回同様、2010年のデータで、正確性は保証できないことをご了承いただきたい。なお、今後は「真・併殺打率」と表記するのが面倒なので、「併殺打率」と表記する。
 前回も述べたように、併殺打機会とは無死または1死「1塁」「1,2塁」「1,3塁」「満塁」の8つ。8つの各機会の併殺打率をまとめたのが下の表であるが、無死と1死とでおもしろい違いがあった。

機会数併殺打併殺打率
無死1塁38953318.50%
無死1,2塁843748.78%
無死1,3塁263207.60%
無死満塁217188.29%
   無死の合計52184438.49%
機会数併殺打併殺打率
1死1塁407146311.37%
1死1,2塁164919611.89%
1死1,3塁7758611.10%
1死満塁6127211.76%
   1死の合計710781711.50%

 無死では7〜8%台、1死では11%台という違いが見られた。私には競技経験がないので理由はわからないが、1死の方が守りやすいのだろうか。それとも、たまたま1死の方が併殺が取れただけのことなのだろうか。それとも、この表ではわからない要因が隠れているのだろうか。
 私のイメージでは、3塁に走者がいる時(1,3塁または満塁)は、前進守備が功を奏さずにピンチ拡大するので他の状況(1塁または1,2塁)に比べて併殺打率が低くなると思っていた。ところが、特に1死ではほとんど差はなかった。また、無死と1死での併殺打率の違いも興味深い。無死1塁や無死1,2塁では犠打を選択する余地があるので、1死よりも併殺打率が低くなったということはあるかもしれないし、他に原因があるかもしれない。これらの原因を解明するには併殺打だけでなく、併殺打以外の状況(安打、四死球、犠打、併殺打以外の凡打)がどうだったのを見る必要があるだろう。
 上の表の中で機会数が多いのは、無死1塁の3895回1死1塁の4071回ということで、この2つについての併殺打率ランキングを作成してみた。

 左側の表が無死1塁、右側の表が1死1塁での併殺打率ランキングである。ランキングの対象はいずれも30打席以上とした。前回同様、左打者には色付けをしている。

 早速、無死1塁から見ていこう。
 無死1塁での併殺打率が8.50%なので、16位と17位の間に平均を表すラインを引いた。これより上が平均よりも併殺打率が高く、これより下が平均よりも併殺打率が低いことを意味している。
 1位は坂口智隆(オリックス)の23.8%で、唯一の20%超えとなった。上位16人のうち、8人が左打者である。坂口以外は本塁打が多い打者なので、犠打ではなく強攻を選択した結果、強い打球(ゴロ)が野手の正面をついたということなのだろう。
 参考のために、8人の本塁打、犠打、打率、長打率を以下に示した。これだけの長打(への期待)があるので併殺打のリスクを負うのは仕方がなく、このあたりは併殺打率の高さだけで論じてはいけないといえる。

本塁打犠打打率長打率
坂口智隆57.308.427
大松尚逸161.260.403
阿部慎之助441.281.608
後藤光尊160.295.441
鳥谷敬192.301.475
T−岡田330.284.575
ブラゼル470.296.573
スレッジ280.252.488

 併殺打率が最も低いのは、平野恵一(阪神)、石川雄洋(横浜)、鉄平(楽天)、荻野貴司(ロッテ)、西岡剛(ロッテ)の5人で0.0%だった。特に平野は78打席(全打者の中で最多)で併殺打0ということで価値が高いといえる。この年(2010年)の平野は、主に2番打者として出場し、打率.350、出塁率.499、犠打59の成績を残しており、繋ぎとして役割を果たした。無死1塁からの犠打が多かったと思うので、そのうちのいくつかで強攻していたらどうなっていたのだろうか。

 参考値として、30打席未満で何人かピックアップした。
 打数は少ないながらも、新井貴浩(阪神)、ペタジーニ(ソフトバンク)は坂口智隆を上回る併殺打率だった。城島健司(阪神)、村田修一(横浜)も右の強打者なので、ある程度納得できる結果だと思う。

 続いて、1死1塁を見ていく。
 1死1塁での併殺打率が11.37%なので、24位と26位の間に平均を表すラインを引いた。これより上が平均よりも併殺打率が高く、これより下が平均よりも併殺打率が低いことを意味している。
 1位は城島健司(阪神)の30.2%で、唯一の30%超えとなった。上位10人のうち、9人が右打者である。5%未満の45位以下には左打者が多く、無併殺打記録を持っている金本知憲(阪神)もその1人だ。
 30打席未満では無死1塁の結果と同様に、梵英心(広島)と平野の低さと、ペタジーニの高さが目を引く。

 無死1塁と1死1塁の表を見ていると、併殺打率の傾向が全く一致しないことがわかる。つまり、大雑把に分けると、
 (1)無死1塁と1死1塁の両方で併殺打率が高い →城島、後藤、小谷野栄一(日本ハム)、嶋基宏(楽天)など
 (2)無死1塁の方が併殺打率が高い →坂口、大松、T−岡田など
 (3)1死1塁の方が併殺打率が高い →森野将彦(中日)、サブロー(ロッテ)、石川、西岡など
 (4)無死1塁と1死1塁の両方で併殺打率が低い →平野、梵、鉄平、本多雄一(ソフトバンク)など
の4つのパターンが存在しているということだ。併殺打機会数が両方で一致しないのは理解できる。野球には打順という縛りがあるので、無死1塁や1死1塁で回ってくるかどうかは前の打者の力量に依存する部分が大きいからだ。特に、セ・リーグの1番打者だと、無死1塁で打席が回ってくる機会は少ないだろう。
 しかし、併殺打率の傾向が一致しないのはどういうことだろう? 上記(1)や(4)のように、両方とも高い or 両方とも低い、というのが普通ではないのか。(2)や(3)のように、片方が高いということは、1塁にいる走者の走力も大きく関係しているのだろうか。それとも機会数の傾向が異なるから、その打者のタイプによって選択する作戦が異なるからなのか。それとも機会数が充分に多くないため、たまたまの結果(誤差の範囲)なのか・・・。

 データが1年分だけなので、他の年でも調べる必要があるだろう。また、併殺打は投手のタイプ(三振を取るのか、打たせて取るのか)や守備の力量(技術の上手・下手だけでなく、守備位置も含めて)によっても左右されるので、打者の実力だけのものとして判断すべきではない。このページの趣旨は、併殺打の多い(併殺打率の高い)打者を揶揄するのではなく、強打者ゆえの勲章と捉えているので、その打者のトータルの成績と照らし合わせてお楽しみいただければと思う。

 次回は、投手のランキングを見ていきたいと思う。


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