第8回 ピッチングスタイルによる投手のポジショニング(2008.9.9)


 このページを5年以上も放置していたが、久しぶりの更新となる今回は、打者を打ち取った内容による投手の分類というのを紹介したいと思う。

 まず、投手が打者を打ち取る(アウトを奪う)手段にはどのようなものがあるかを考えてみよう。
 1つは打者にボールを当てられないように三振を奪うこと、もう1つはボールを当てられても野手がフライを捕ったり、ゴロを1塁へ送球したりして出塁させないことである。

 これらは以下のように分類できる。
 ・打たせなかったことによるアウト(空振り三振、見逃し三振)
 ・打たせたことによるアウト(ゴロアウト、併殺打、内野フライ、外野フライ、ファールフライ)

 「併殺打はゴロアウトに含まれるじゃないか」と思われるかもしれないが、1球で複数のアウトを稼ぐ併殺打というのが重要だと考えているため、敢えて別々にしている。
 後者については、さらに細かく分類でき、例えばゴロアウトだと、投手ゴロ、捕手ゴロ、1塁ゴロ、2塁ゴロ、3塁ゴロ、遊撃ゴロ、そして滅多に現れないが、レフトゴロ、センターゴロ、ライトゴロとポジションごとに1つアウトが存在することになる。併殺打、内野フライ、外野フライ、ファールフライについても同様であるが、ここではポジションごとのアウトの分類はせずに、上記の箇条書きで挙げた7つの分類でシンプルに話を進めたいと思う。
 また、打者を打ち取る以外のアウトとしては、盗塁死、走塁死、牽制死などがあるが、こちらは走者のアウトとなるため、今回の話からは除外する。

 それでは、これら7つについての上位3位までを見てみよう。
 記録は2007年のものである。なお、これらの数字はレコードブックやオフィシャル・ベースボール・ガイドのような記録集には載らない類のもので、私の手作業による集計となったため、間違いがあったらご指摘ください。(※振り逃げは空振り三振としてカウントしている。)

 ざっと見た感じだと、ピッチャーの持ち球が
 ・シュートだとゴロアウトや併殺打
 ・チェンジアップやカットボールだとフライアウト
 ・フォークボールやスライダーだと空振り三振
がそれぞれ多い傾向があるように思うが、どう感じただろうか?

 これらの数字を個々に見ても面白いのだが、これらの関係を総合的にグラフ化する方法がある。
 コレスポンデンス分析という手法で、投手と打ち取った内容の関係を1枚のグラフで表すことができるのである。それが下の図である。分析の対象になった投手は、7つの合計アウト数が414(投球イニングに換算すると138イニング)以上の25人である。この区切り方に異論があるかもしれないが、打者を打ち取る以外のアウト(盗塁死、走塁死、牽制死など)を除外しているので、規定投球イニングで区切るよりも厳しくなっている。

 コレスポンデンス分析についてはここでは説明しないので、興味のある方は下記の本などを参考にしていただきたい。
 ・Excelで学ぶコレスポンデンス分析(高橋信、オーム社) アマゾンのサイトはこちら
 ・すぐわかるSPSSによるアンケートのコレスポンデンス分析(内田治、東京図書) アマゾンのサイトはこちら




 通常コレスポンデンス分析では軸の意味づけはしないとされている。しかし、分析が上手く行った場合、結果として軸に意味づけができてしまうことが多いので、今回の結果について横軸と縦軸をそれぞれネーミングするならば、
 ・横軸が「ゴロを打たせる」と「フライを打たせる
 ・縦軸が「(ゴロやフライも含めて)打たせて取る」と「三振を取る
でそれぞれ分けられていると解釈できそうである。上表で挙げた7つの数字について、
 ・バランスを考慮してポジショニングしている
 ・「投手」のカテゴリースコアと「打ち取った内容」のカテゴリースコアは別々に計算されている
ため、例えばゴロアウトの数が1番多い黒田博樹(広島)がゴロアウトよりも併殺打の方が近くに位置していたり、ゴロアウトの最も近くに平野佳寿(オリックス)が位置していたりするなど解釈するのに難しい面はあるものの、そこそこ上手く分かれているのではないだろうか。

 2007年のパ・リーグのタイトルホルダーの3人を比較すると、
 ・ダルビッシュ有(日本ハム、最多奪三振)は三振を奪うタイプ
 ・成瀬善久(ロッテ、最優秀防御率)はフライを打たせて取るタイプ
 ・涌井秀章(西武、最多勝利)はゴロを打たせて取るタイプとフライを打たせて取るタイプの中間
ということがわかるかと思う。

 コレスポンデンス分析では、原点(線がクロスしている箇所)の近くに位置している投手ほど、打ち取った内容に特徴がない(三振もゴロもフライもほぼ平均値)という解釈ができるが、今回の結果では該当者はいなかった。原点から割と近くにいるのは、木佐貫洋(巨人)、グライシンガー(ヤクルト)、三浦大輔(横浜)の3人だが、
 ・木佐貫は見逃し三振が平均よりも多く、他はほぼ平均値
 ・グライシンガーはファールフライと見逃し三振が平均よりも多く、空振り三振が平均よりも少ない
 ・三浦は見逃し三振が平均よりも多く、併殺打と空振り三振が平均よりも少ない
となっており、このあたりの解釈が難しいのだが、決して特徴がないわけではない。

 最後に、念のために断っておくが、このポジショニングが投手の能力としての優劣を表したものではなく、あくまでタイプ分けをしたにすぎないという点にくれぐれもご注意願いたい。
 次回は、今回のコレスポンデンス分析の結果を解釈する上で、もう少し足りない点を追加して説明する予定である。



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