第22回 日本シリーズ 初戦に勝つと有利?(2023.10.30)


 久しぶりの更新になった。
 現在、日本シリーズが第2戦まで終わって1勝1敗で、明日第3戦がおこなわれる。
 今更説明するまでもないことだが、日本シリーズは7回戦で先に4勝すれば終了する。
 引き分けを考慮しなければ、勝敗パターンは35通りあり、日刊スポーツのページでは、昨年までの日本シリーズ(73回分)について、パターンごとの出現頻度を紹介している。
 また、身近な例を紹介している統計学の本などで、4勝するパターンごとの確率を目にしたことがある方も多いかと思う。
 その確率の理論値と実測値(昨年までの日本シリーズとワールドシリーズ)をまとめたのが下表だ。


 日本シリーズは理論値と実測値の差が小さく、ワールドシリーズは差が大きいと言えそうだ。特に、4勝0敗は日本シリーズが12.3%に対して、ワールドシリーズが18.4%なので、約1.5倍の差がある。
 なお、ワールドシリーズは昨年まで118回おこなわれているが、9回戦制(5勝で終了)が4回あったので、その分は計算から除外した。

 日本シリーズのような短期決戦において、スポーツ新聞などで「初戦を制したチームの△%が日本一になる」といった記述を目にしたことがあると思う。これを見て、皆様はどのような印象を持たれただろうか?
 「初戦に勝てば、勢いに乗って一気に勝てることが多いから、初戦は大事なんだな」と思った方は多くいると思うが、「初戦に勝てば、この後でタイに持ち込まれたり、負け越したりしても最終的には日本一になれるから、初戦は大事なんだな」と思った方はいないと思う。

 先に4勝することを競い合うのだから、初戦を制した方が有利なのは当然だ。短期の戦いほどその傾向は強く、ファーストステージの3回戦制(2勝で終了)だと初戦の重みはますます大きくなる。反対に、143試合もおこなうペナントレースでは初戦の重みはそれほど大きくならなくなる。
 初戦で勝っても、第2戦を落として追いつかれてしまえば五分五分になるのも当然だ。それは1勝1敗に限らず、2勝2敗でも3勝3敗でも同じことだ。現在は1勝1敗だが、「初戦を勝った阪神が有利だ」と思っている方はいないだろう。同じ実力同士のチームという仮定の下では、タイの状況では五分五分なのだ。
 細かいことを言えば、ホームで試合をする(後攻になる)とか前の試合で相手のエースやストッパーを打ち崩したとか3連敗から3連勝したとかでプラス思考で戦えるということがあるので、いつも五分五分ではないかもしれないが、理論上は1つでも勝ち越している方が有利であり、タイの時はどちらかが有利ということはない。

 それでは昨年までの日本シリーズとワールドシリーズについて、日本一になった側から見た勝敗パターン別の出現頻度を見ていく。ただし、引き分けは除いているのでご注意いただきたい。
 まず、第1戦。下表の左が日本シリーズ、右がワールドシリーズだ。両方とも初戦に勝利した割合は60%以上で、約62〜64%ある。これまで述べてきたように、これだけで「初戦に勝つと有利」と即断してはいけない。



 第1戦の重要性が報じられることが多いが、第1戦が特別に高いのではない。第2戦で勝利したチームも同程度で日本一になっており、日本シリーズでは47回(64.4%)、ワールドシリーズでは75回(65.8%)だ。第3戦は少し上昇し、日本シリーズでは51回(69.9%)、ワールドシリーズでは第2戦と同じ75回(65.8%)だ。極端に言えば、3勝3敗で迎えた第7戦は100%になるので、結局のところ、第何戦であろうが勝った方が日本一に近づいているだけだ。

 次に、第2戦。両方とも2連勝の割合はほぼ同じ(約39〜40%)だ。
 ここでは1勝1敗に着目する。
 ○●と●○の出現頻度について、日本シリーズは16回と18回、ワールドシリーズは29回と31回となっており、大きな差はない。初戦での勝利が有利になるのであれば、○●の方が多くなるはずだが、特にそのようなことはないようだ。



 続いて、第3戦。両方とも3連勝の割合はほぼ同じ(約21〜23%)だ。驚くことに、日本シリーズでは過去に3回ある「3連敗からの4連勝」がワールドシリーズでは1回もない。
 ここでは2勝1敗と1勝2敗に着目する。
 2勝1敗は下表のように3パターンある。日本シリーズでは出現頻度は●○○が多く、●○○が不利に働いているということはなさそうだ。ワールドシリーズでは●○○が他の2つより少ないが、差は小さく●○○が不利に働いているということはなさそうだ。
 1勝2敗も同じく3パターンある。日本シリーズでは出現頻度は●●○が多いが、差は小さく○●●が有利に働いているということはなさそうだ。ワールドシリーズでは○●●が他の2つより少なくなっているのが意外といえる。
 ここでも初戦での勝利が特別に有利に働くわけではないことがわかった。
 日本シリーズでは2勝1敗が39回に対して、1勝2敗は14回で、1勝2敗から逆転することの難しさがわかる。



 続いて、第4戦。両方とも3連勝までの割合はほぼ同じだったが、最初の表でも書いたように、4連勝の割合は12.3%と18.4%で約1.5倍の差があった。
 ここでは2勝2敗に着目する。
 2勝2敗は下表のように6パターンある。日本シリーズでは○○●●と●●○○が他の4つより多くなっている。初戦に勝った3パターンの合計は14回、負けた3パターンの合計も14回と同数なので、初戦の勝利が有利に働いているということはなさそうだ。ワールドシリーズでも3パターンの合計が22回と24回なので、初戦の勝利が有利に働いているということはなさそうだ。



 第5〜6戦は省略して、最後の第7戦までをまとめたのが下表だ。ここまでくると、パターンが多すぎて両方の比較は面倒になるので、最初に出した表を見る方がわかりやすいと思う。
 ここでは4勝3敗に着目する。
 4勝3敗の組み合わせは20通りあるが、実際に現れたのは日本シリーズが14通り、ワールドシリーズが15通りだ。初戦に勝ったパターンと負けたパターンの合計は、日本シリーズが11回と10回、ワールドシリーズが17回と23回となっており、初戦に勝ったことが有利に働いているということはなさそうだ。
 やはり、初戦に勝利しても、一度追いつかれるとその優位性はなくなってしまうことがおわかりいただけたかと思う。

 4勝したパターンのうち、初戦で勝ったことが有利に働くのは、一度も追いつかれることなくリードしたまま4勝した場合で、薄青色に塗られた部分が該当する。これは、最初に2連勝してそのまま逃げ切ったことを意味し、その出現割合は、
 (1)日本シリーズは、5パターンの合計27.4%
 (2)ワールドシリーズは、4パターンの合計29.8%
ということになる。これを「逃げ切り率」とすると、当初の約62〜64%とかなり離れており、実感に近い数値になるのではないだろうか。
 今年の日本シリーズはどうなるだろうか…。




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