第15回 併殺打機会とは〜真の併殺打率を算出する〜(2012.11.27)


 第12回で、併殺打率を求めるには打数で割り算するのではなく、併殺打が起こる条件だけを分母にして計算するべき、と書いた。
 安打や本塁打や三振というのはどの打席でも平等に生じるので、打数や打席数で割り算して1打数(または1打席)ごとの発生率(打率、本塁打率、三振率)を求めれば打席数の違う選手同士の比較が可能だ。

 一方、併殺打というのはどの打席でも平等に生じるわけではない。どんなに足が遅い打者でも「2死走者なし」や「1死2塁」で併殺打を記録することはできない。併殺打が発生する条件というのは、無死または1死で、1塁に走者がいる状況に限定されるのだ。
 これをもう少し整理してみよう。ランナーの状況というのは以下の8通りで、この中で1塁に走者がいるのは青字で書かれた4つである。

   「走者なし」「1塁」「2塁」「3塁」「1,2塁」「1,3塁」「2,3塁」「満塁

 そして、2死の場合は該当しないので、

   ・「無死1塁」「無死1,2塁」「無死1,3塁」「無死満塁」
   ・「1死1塁」「1死1,2塁」「1死1,3塁」「1死満塁」

の8つが併殺打機会打席併殺打シチュエーション)ということになる。
 「併殺打シチュエーション」というのは私の造語だ。検索してみたが1件もヒットしなかったので、誰も使っていないのだろう。
 抑えの投手がセーブの付く場面で登板することをセーブシチュエーションというのを目にするので、それに倣って勝手に名付けてみた。まあ、表現はどうであれ、併殺打が発生する打席を分母にすることで、実感に近い割合を出し、それが従来の併殺打率とどう変わるかを見ていきたい。


 今回は2010年シーズンのデータについて、併殺打機会数(シチュエーション)に応じた真の併殺打率の算出を試みた。もう2012年シーズンが終わったのに今さら・・・、と思われるかもしれないが、データ集めと整理に結構な時間が掛かったのだ。古いデータで申し訳ないが、お付き合い願いたい。

 まず、併殺打数から。
 左側の表は併殺打数のランキング(10以上)である。左打者には色付けをした。
 1位と2位は右打者だが、3位タイには左打者の後藤光尊(オリックス)がいて、4位以降を見ると左打者も結構多いという印象だ。
 この年、併殺打を1以上記録したのが238人。そのうち、右打者が143人(60.1%)、左打者が84人(35.3%)、両打者11人(4.6%)という内訳になった。
 2008年の週刊ベースボールの選手名鑑号によると、全選手の構成比は右打者が504人(60.7%)、左打者が298人(35.9%)、両打者28人(3.4%)とのことなので、特に併殺打での右打者の割合が高いわけではなさそうだ。ただし、
 ・週刊ベースボールの情報から2年経っている
 ・(週刊ベースボールの数値は)1軍に出ていない選手も含めての構成比である
 ・(今回の構成比は)併殺打の大小に関係なく数えている
ので、あくまで参考値として捉えてほしい。
 ただ、併殺打数10以上になると、41人中、右打者が30人(73.2%)、左打者が11人(26.8%)となり、ある程度の数になると右打者の割合が高くなっていることがわかる。

 続いて、メインである併殺打機会打席数について。
 右側の表は併殺打機会打席数のランキング(100打席以上)で、両リーグ合わせて34人だった。正確性は保証できないので、参考値としてご覧いただければと思う。
 一番多かったのは金泰均と今江敏晃(いずれもロッテ)の143打席だった。ランキングされている選手の多くが2〜5番に起用されていた。やはり、下位打線に比べてそういう機会で打順が回ってくることが多いようだ。

 併殺打機会打席数÷打席数で求めたのが「機会率」だ。個人差はあるものの、だいたい15%〜25%の間に入っていることから、4〜6打席に1回、つまり平均して1試合に1回は併殺打機会が訪れていたことになる。
 この34人の中では西岡剛(ロッテ)が15.0%で最も低い。その理由は西岡の打順によるもので、出場した全144試合で1番として起用されている。1番打者の第1打席というのは併殺打機会ではない(無死走者なし)ため、低くなって当然と言える。

 従来の「併殺打÷打数」で算出した値を「旧・併殺打率」、「併殺打÷併殺打機会数」で算出した値を「真・併殺打率」とした。正確性が保証できないのに「真」という言葉を使うのは抵抗があったが、「正しい考え方」または「正しい計算方法」という意味で捉えていただければと思う。
 2002年当時、深く考えずに併殺打を打数で割り算していたが、打席数で割る方がまだ良かったことに今になって気づいた。打率の計算と違って、四死球や犠打などを除外する必要がないからだ。「併殺打率」を検索してみると、多くのページでも打数で割り算しており、当時の私と同じく、打率と同様に考えている方が多いようだ。中には私のページを引用元として掲載したため、駒田徳広の間違えた打数もそのまま引用した方がおり、申し訳ない限りである。

 「真・併殺打率」によって、「旧・併殺打率」と大きく順位が変わった打者は少ないが、多少の変動はあったようだ。旧・併殺打率では金泰均が1位だったが、真・併殺打率では城島健司(阪神)が1位になった。18.6%ということは、(併殺打機会数が)約5〜6打席に1回の割合で併殺打を記録していたことになる。
 少ない方のトップは平野恵一(阪神)の1.7%。121打席の機会数で2しかなかったということで、ただ1人の1%台となっている。
 ちなみに、金本知憲(阪神)は機会数が99打席だったので上の表には載っていないが、3併殺打で3.0%だった。この年はフルイニング出場がストップしたため、前年(2009年)より打席数が200以上も減った。若い頃に比べて脚力は衰えているはずだが、梵英心(広島)よりも良い(梵は3.8%で32位)のはさすがといえよう。
 「旧・併殺打率」から順位が大きく良化(5位以上)したのは、森本稀哲(日本ハム、10位→20位)、今江敏晃(ロッテ、22位→27位)の2人。森本稀哲は34人の中で「機会率」が最も高い25.3%だった。出場試合数が115と少なかったため、打席数は2番目に、打数は最も少ない。それでいて「併殺打機会打席数」は12位タイの128なのだから、機会数の多さがわかるというものだ。機会率が高いということは、他の選手よりも相対的な分母が大きくなるので、真・併殺打率が低くなるというわけだ。従来の併殺打率ではわからなかった記録といえる。
 順位が大きく悪化(5位以上)したのは、ラミレス(巨人、15位→8位)、多村仁志(ソフトバンク、20位→13位)、山崎武司(楽天、25位→18位)、和田一浩(中日、19位→14位)の4人だった。


 もともと10年前に併殺打率に着目したのは、
  ・打席数の違う打者同士を比較する
  ・右打者と左打者との違いを比較する
という目的からであった。前者の目的は達成したので、ここから後者について述べる。

 ここでは併殺打機会打席数を40まで拡張した。
 40以上は126人で、右打者が72人(57.1%)、左打者が49人(38.9%)、両打者が5人(4.0%)という内訳だった。右打者と左打者について、真・併殺打率を2.5%刻みでグラフ化(ヒストグラム、ピラミッドグラフ)にしたのが左のグラフである。
 左打者の最頻値(モード)は「5.0%〜7.5%」「7.5%〜10.0%」で、右打者の最頻値(モード)は「7.5%〜10.0%」と「10.0%〜12.5%」になっており、右打者の分布の方が併殺打率の高い方に寄っていることがわかる。また、12.5%以上に限定すると、左打者では16.3%だが、右打者は41.7%となり、2.5倍以上の開きがある。

 併殺打機会数が100以上では1位が城島の18.6%だったが、40以上に広げると城島を上回る20%超えが2人いる。
 1位は井端弘和(中日)で53打席で13併殺打(24.5%)、2位は中村紀洋(楽天)で86打席で18併殺打(20.9%)だった。井端は約4打席に1回ということなので、ずいぶんと多いペースといえる。
 ちなみに、井端はこの年(2010年)は成績を大きく落とし、53試合・212打席しか出場していない。前年の2009年は144試合・657打席、翌年の2011年は104試合・434打席だったので、2009年の3分の1近くも減ったことになる。併殺打は13なので、もし例年通り出続けていたら併殺打数も1位に迫っていた可能性がある。(尤も、それだけ併殺打を打ち続けていたら打撃不振で下げられてしまうだろうから、単純な計算通りには行かないのだろうが。)

 統計学を勉強したことがある人ならば、「右打者と左打者で有意差はあるのだろうか?」ということが気になると思う。確かに、左打者よりも右打者の方が高い傾向にあるが、それが誤差の範囲なのか、それとも誤差の範囲外なのか、というのを統計学的にチェックしたいと思うのは当然のことだ。
 チェックする方法はいくつかあるが、以下の3つでは全てp値が一致するので、統計解析ソフトお持ちの方は確認してほしい。
  (1)目的変数を「真・併殺打率」、群を「右打者」「左打者」にした2群間の「母平均の差の検定(t検定)
  (2)目的変数を「真・併殺打率」、説明変数の「右打者」「左打者」をダミー変数にした「重回帰分析
  (3)目的変数を「右打者」「左打者」の2群、説明変数を「真・併殺打率」にした「判別分析

 注意点としては、(1)では等分散を仮定したt検定をおこなうこと、(2)では分散分析または説明変数のp値を見ること、(3)では説明変数のp値を見ること、である。(1)と(2)はExcelに付属している「データ分析(Excel2007、2010)」または「分析ツール(Excel2003以前)」でも実行できるので、興味のある方はこちらでもご確認いただきたい。
 私は(1)の別バージョンである等分散を仮定しないウェルチ(Welch)検定をおこなった。p値は0.000となり、右打者と左打者とで有意差が見られた。ただし、多くの方はp値を計算して終わり、となるだろうが、実はp値だけでは不充分である。この差がどれほど大きな差であるかを表す統計学的な指標も出す必要があるのだ。
 これにもいくつかあるのだが、(1)と(3)の手法では相関比(η2乗)、(2)の手法では決定係数(R2乗)というのがあり、これら2つも完全に一致する。統計学の本では、(1)〜(3)の手法は独立した手法としてそれぞれ別章で解説されているので、全く別の手法だと思っている方が多いと思う。私も数年前まではそうだったし、実際、分析目的が完全に同一ではないので、計算方法もかなり違っているし、出力される内容も全然違う。しかし、結論までの方法やアプローチは違えど、最終的に求められる結果(p値)は一致するのだ。このあたりは理論がよくできているといえ、むしろ一致して当然といえるだろう。

 前置きが長くなったが、相関比(決定係数)は0.102だった。相関比(決定係数)は0〜1の間の値を取るが、0.1というのはそんなに大きくない。確かに統計学的には有意差はあるが、実用上、意味があるほどの差はないということを意味している。上の棒グラフ(ヒストグラム、ピラミッドグラフ)を見ると、右打者の方が併殺率が高い傾向があるが、分布が被っている部分も多いため、「明らかに右打者の方が高い」とまで言い切れるほどの差がないということだ。

 次回は併殺打機会別のランキングを見ていきたいと思う。


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