第14回 無死(ノーアウト)1塁、犠打か強攻か その2(2012.03.17)



 前回の続きで、無死(ノーアウト)1塁からの犠牲バント(犠打、送りバント)の是非について考えてみたい。
 前回は昨年4〜7月までのデータだったが、8月からペナントレース終了まで(クライマックスシリーズは除く)を加算したのが上の表である。表の見方などは前回をご参照いただきたい。基本的には前回と同じ流れで書き進めていく。
 ※表を横2つに並べているので、ワイド画面以外の方はスクロールしてください。ちなみに、私は1366×768の環境ですが、横スクロールの必要はありません。ワイド画面が時代の主流なので仕方ないのですが、1つ前が1280×1024だったので、今は縦が狭く感じてしまいます。本文と関係のない愚痴ですみません・・・。

 まずは左の表から。
 無死1塁の総計3665回で平均得点は0.70点だった。7月までは0.68点だったので、微増といえるだろう。
 次に、バント成功した1089回では平均得点は0.60点で、7月の0.61点からわずかに下がった。
 以下同様に、バント失敗した148回では平均得点は0.49点(7月までは0.55点)、バントせずに強攻した2428回では平均得点は0.76点だった。

 続いて右の表。左の表を要約したもので、7月までと比較すると以下のようになる。
 (1)バントが成功した「1死2塁」の全場面では、平均得点が0.58点→0.58点で、得点確率が36.4%→36.7%で横ばい。
 (2)バントが失敗した全場面では、平均得点が0.55点→0.46点で、得点確率が26.8%→22.3%で減少。
 (3)強攻した全場面では、平均得点が0.72点→0.76点で、得点確率が37.0%→38.3%で増加。



 2つ目の表から「バントが成功して1死2塁になった場面」と「強攻した全場面」の得点確率の推移を抜粋してまとめたのが左の表およびグラフである。
 前回と比較すると、2つの分布の違いが大きくなっているような印象を受けた。つまり、1点ではバントの方が高く、2点以降では強攻の方が高くなっているということである。
 バントと強攻との違いを、差(引き算)と比(割り算)で見ると、それぞれ以下のようなことが読み取れる。
 ・無得点で終わる確率はバントの方が1.5%高い。また、無得点の起こりやすさは強攻はバントの0.98倍の高さである。
 ・1点を獲る確率はバントの方が6.0%高い。また、1点を獲ることの起こりやすさは強攻はバントの0.74倍の高さである。
 ・2点を獲る確率はバントの方が3.4%低い。また、2点を獲ることの起こりやすさは強攻はバントの1.41倍の高さである。
 ・3点を獲る確率はバントの方が1.6%低い。また、3点を獲ることの起こりやすさは強攻はバントの1.45倍の高さである。
 ・4点以上を獲る確率はバントの方が2.6%低い。また、4点以上を獲ることの起こりやすさは強攻はバントの2.43倍の高さである。

 前回と同様に、上記について有意差検定をおこうなうと、t検定でもウィルコクソン検定(順位和検定、マン・ホイットニーのU検定)でもp値は0.01を大きく下回った。ただし、相関比(η2乗)は0.005にしかならないので、やはり、「意味があるほどの差」、つまり、一方の作戦を否定して、もう一方の作戦を積極的に選択するほどの大きな差があるとは言えないということになる。サンプル数がこれだけ多くなると、ごく僅かな差でも「有意差あり」と出てしまうので注意が必要だ。
 もちろん、左表で示した差や比に意味があると思えるほどの違いがあるかどうかは個人の主観ということになるので、その判断は皆様に任せるとする。


 最後に、(1)バント、(2)バント失敗、(3)強攻それぞれの上位3人(打者)を列挙する。
 ・バント成功(田中浩康の50回、本多雄一の46回、原拓也の34回)
 ・バント失敗(本多雄一の9回、内村賢介の5回、聖澤諒と福井優也の4回)
 ・強攻(中島裕之の36回、フェルナンデスの33回、村田修一と新井貴浩と李承Yの32回)

 前回で、「野球には打順というのがあるので、バントするかどうかの作戦が先に決まるのではなく、次に打席に立つ打者のタイプによって作戦が決まる」という理由から、「点が入るかどうかはバントの有無で決まるのではなく、結局のところは『打者の力量』や『投手の力量』といった選手によって決まる」と書いた。
 強攻で名前が挙がった5人の打者はいずれも強攻率100%、つまり、バントが一度もなかった。長打力があって、バントする必要がほとんどない(バントがあまり上手くない)打者であれば当然のことで、こういった打者による強攻が平均得点を押し上げている面は否定できないであろう。 中島がWBCのアジアラウンドでバントしたり、李が巨人時代にセーフティバントを決めたりしたことがあるので、全くバントができないわけではないだろうが、多くの場合はチャンスの拡大(自らも出塁して、ランナーを進塁&生還させる)を期待されて3〜5番を任されているはずである。
 李以外の4人は右打者なので併殺打のリスクもある(李の8に対して、中島11、フェルナンデス19、村田19、新井20)が、第7回でも述べたように、併殺打の多さを取り上げるのは正しくない。併殺打が多いだけの打者なら、強攻ではなくバントをさせられるし、それすらできなければ試合に出られなくなるからだ。

 結局のところ、前回も述べたように、同じ場面で同じ打者が「バントした場合」と「強攻した場合」とのデータがなければバントか強攻かのどちらが良いかは議論できないのである。また、そのイニングでの得点はさらにその後を打つ打者の力量によっても上下するので、そういったことも考慮して判断する必要があるだろう。結論としては面白くないかもしれないが、少なくとも、バントと強攻との平均得点(得点確率)だけを取り出して、それがすぐに因果関係として成立するわけではないということを留意していただきたい。

 ※相関関係=因果関係にはなるとは限らない、ということについては統計学や社会調査の本などに記載されているので、ご興味のある方はそちらをご覧いただければと思う。




プロ野球記録回顧部屋に戻る