第17回 併殺打機会とは〜投手別の奪併殺打率〜(2013.1.2)


 過去2回では打者の併殺打と併殺打率を見てきたが、今回は投手が奪った併殺打と併殺打率について述べる。これまでと同様、2010年のデータで、正確性は保証できないことをご了承いただきたい。
 投手から見た記録なので、「併殺打」「併殺打率」と記載する。既に、三振の記録がそのように区別されているので、同じように解釈していただければと思う。

 まず、投手が奪った併殺打数について述べる。下に2つの表を用意した。左側の表が奪併殺打で、10以上の投手を掲載(6〜9は人数のみ)している。右側の表は奪併殺打機会数で、90打席以上を掲載した。
 左側の表にあるように、最も奪併殺打数が多かったのが久保康友(阪神)の26。2位がケッペル(日本ハム)の23、3位が帆足和幸(西武)の20だった。併殺打を打たせた割合を見るには奪併殺打数の比較だけでは不公平なので、打者の時と同様に、併殺打機会数のランキングを右側の表に併記した。
 奪併殺打機会数が最も多かったのは木佐貫洋(オリックス)、2位はダルビッシュ有(日本ハム)、3位は杉内俊哉(ソフトバンク)とマーフィー(ロッテ)だった。

 通常、奪併殺打機会数はわからない(公式記録として公開されていない)ので、簡易的に奪併殺打率を求めるには、
  (1)投球イニング数で割り算する。
  (2)対戦打者数で割り算する。
の2通りが考えられる。(1)は防御率や奪三振率の考え方と同じように、9イニングで何個の併殺打を奪ったかを表す。(2)は打者にとっての打席数に相当し、対戦した打者数に占める併殺打の割合を表す。
 そこで、投球イニング数と対戦打者数のすぐ右に奪併殺打率と順位を記載したので、奪併殺打機会数から求めた場合とどれぐらい異なるかを見比べていただきたい。

 前々回(第15回)で述べたように、打者によって併殺打機会の出現頻度(出現率)が異なるので、(1)も(2)も分母として不充分である。
 打者の視点で考えると、打者の場合、打順という縛りがあるので、自分の出番は9人ごとに回ってくる。自分の打順の時に「併殺打機会かどうか」は、自分の前を打つ打者の影響を受ける。つまり、自分(打席に入っている打者)の責任ではないので、自分の努力によって併殺打機会数を増やしたり減らしたりすることはできない。
 一方、投手の視点で考えると、投手の場合、イニングの途中からランナーがいる状態で登板するリリーフ投手を除けば、降板するまでずっとマウンドに立ち続けているので、「奪併殺打機会かどうか」はその投手自身の責任になる。実際にできるかどうかは別にして、投手自身で併殺打機会数を増やしたり減らしたりすることは(理論上は)可能だ。ただ、野手の失策(エラー)で出塁ということがあるので、野手の影響はあるだろう。

 投手は「奪併殺打機会かどうか」は自分の責任(力量)に依存する部分が大きいので、奪併殺打機会の出現頻度(出現率)も一様ではないはずだ。
 それを証明するために、この39人ついて、
  ・奪併殺打機会数と投球イニング数
  ・奪併殺打機会数と対戦打者数
との相関係数を求めた。投球イニング数が0.628、対戦打者数が0.679だったので、中程度の相関と言えよう。
 もし、この相関係数が0.9以上であれば、わざわざ時間と労力をかけて奪併殺打機会数を求めるよりも投手イニング数や対戦打者数を分母として代用した方が効率的だが、0.7程度の相関係数であれば、やはり奪併殺打機会数から奪併殺打率を求めるべきだ。ちなみに、投球イニング数と対戦打者数との相関係数は0.988だった。

 前置きが長くなったが、奪併殺打機会率は個人差はあるものの、だいたい15%〜20%の間に入っていることから、5〜6打席に1回の割合で奪併殺打機会が訪れていたことになる。先発投手の1試合の対戦打者数の平均が25.09人(2010年ペナントレースのデータ)なので、1試合の登板に換算すると3〜5回だ。

 奪併殺打率が最も高かったのは久保康友(阪神)の21.6%で、唯一の20%超えとなった。2位が帆足和幸(西武)の16.9%、3位がケッペル(日本ハム)の16.7%、4位が武田勝(日本ハム)とスタンリッジ(阪神)の15.9%であることを考えると、久保の高さが際立つ。
 もし、投球イニング数や対戦打者数で割り算していたら、奪併殺打率の1位はケッペルになっていたわけで、奪併殺打機会を求めることの重要さがわかっていただけると思う。
 順位が大きく良化(5位以上)したのは、成瀬善久(ロッテ)、チェン(中日)、館山昌平(ヤクルト)、金子千尋(オリックス)の4人。特に成瀬やチェンは10以上もアップしており、これも機会数を求めなければ過小評価されるところだった。
 順位が大きく悪化(5位以上)したのは、齊藤悠葵(広島)、内海哲也(巨人)、スタルツ(広島)、小椋真介(ソフトバンク)、木佐貫洋(オリックス)、許銘傑(西武)、山本省吾(オリックス)の7人。特に齊藤は投球イニング数(に換算した奪併殺打率)では6位、対戦打者数(に換算した奪併殺打率)では7位で両方とも上位だったが、機会数(に換算した奪併殺打率)では17位までダウンということで、機会数を求めなければ過大評価されるところだった。
 奪併殺打機会数が90未満で面白い選手が1人いたので、表の一番下に記載しておいた。ネルソン(中日)はこの年、銃刀法違反容疑で開幕から3ヶ月の出場停止になったお騒がせ選手だったが、66の機会中、16の併殺打を奪い、帆足を超える24.2%を記録した。Wikipediaによると、「日本に来て一番向上したのは制球」と語った(ソースは中日スポーツとのこと)、とされていたので、その制球力で凡打を積み重ねたのだろう。翌2011年は209イニングを投げているので、時間があれば2011年の奪併殺打率も調べたいと思う。

 続いて、機会(シチュエーション)別の奪併殺打率を見ていく。
 左側の表が無死1塁、右側の表が1死1塁での奪併殺打率ランキングである。ランキングの対象はいずれも30打席以上とした。

 無死1塁から見ていこう。
 前回(第16回)で述べたように、無死1塁での併殺打率が8.50%なので、18位と19位の間に平均を表すラインを引いた。これより上が平均よりも奪併殺打率が高く、これより下が平均よりも奪併殺打率が低いことを意味している。
 1位は帆足の24.4%で、唯一の20%超えとなった。
 奪併殺打率が最も低いのは、金子(オリックス)で2.0%だった。下位にランキングされている投手の多くが三振を取るタイプなので、このようなゴロを打たせるランキングでは下位になるのは当然と言えよう。
 参考値として、30打席未満で何人かピックアップした。
 越智大祐(巨人)は22.7%、山口鉄也(巨人)は4.2%だった。2人とも僅差の展開(いわゆる勝ちパターン)で登板していたが、同じリリーフでも越智は要領良く打ち取るタイプ、山口はそうでないということがわかる。また、篠田純平とジオの広島コンビが0%というのも興味深い。

 最後に、1死1塁を見ていく。
 前回(第16回)で述べたように、1死1塁での併殺打率が11.37%なので、18位と19位の間に平均を表すラインを引いた。これより上が平均よりも併殺打率が高く、これより下が平均よりも併殺打率が低いことを意味している。
 1位は久保の29.4%で、もう少しで30%に到達するところだった。2位である武田勝と由規(ヤクルト)の20.5%を大きく引き離している。
 1死1塁から奪併殺打ということは、一挙に3死でチェンジになるので、投手にとって笑いが止まらない展開であろう。この年の久保はチームで唯一の規定投球回数到達者(202 1/3イニング)で、29試合に登板して14勝5敗、防御率3.25の成績を残したということで、まさに頼もしい存在だったのである。
 30打席未満でわからないのがジオだ。無死1塁では0.0%なのに、1死1塁では2位に相当する20.8%になっている。この極端な違いは何なのだろうか?

 併殺打というのはなかなか狙ってできるものではない。「ゴロを打たせる」と簡単に言うが、ゴロを打たせるつもりが、
  ・野手の間を抜けて安打になる。
  ・ゴロを打たせても、味方の内野手がエラーをしてしまう。
  ・打者が打ち上げてフライになる。 → フライだとアウトは1つしか取れない。
  ・打者が空振りしてしまう。
ということも起こるからだ。また、相手打者のタイプ(右打者か左打者か、強打者か巧打者か、俊足か鈍足か、など・・・)や力量にも大きく左右されるだろう。
 投手の記録と言えば、勝敗やセーブ数、奪三振数などが有名な指標であるが、その投手がどういうタイプなのかを知る意味では、NPBには奪併殺打数なども公開してほしいものである。


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